同居記録:09

濱野裕生

2020年12月25日 16:40

同居記録:09

2003年3月28日夕刻、熊本着。玄関から居間へ移動できない母。
 車から出した母を居間へ移動させるまでが大変な作業になりました。車の助手席から玄関までの母は私の腰に手を回し、私は母の左側から背中に回した右手を母の右脇へ差し込み、半ば持ち上げるように歩かせましたが相当に股の関節が痛むようでした。  次に、玄関から居間へ上がる際にはどうしても足が上がりません。長い期間というもの摺り足の癖ができてしまって足を上げようとしても絶対に上がらないのです。 
 「ホホ、何でだろうね」、「歩き辛いね」、という母はとうとう膝の痛みを堪えながら四つん這いになって
玄関を上がり、事前に敷いていた毛布に座り込むことが出来ました。「母ちゃん、ごめんネ」と断った上で私は母を毛布で居間まで引き摺り、車の助手席から居間のソファーに座らせるまで約20分。私たちの最初の闘いが終わりました。
 母の肩越しに見える台所でお茶を沸かす嫁の後姿を眺めながら、「これは大変なことだ」と呟きましたね。すっかり老い果てた母を目前に、哀れみや怒り・、様々な感情が一気に私を襲ってきましたね。兄や姉が母に対して抱いていた感情というものはこういうものだったのか。と感じました。
 でも、私は負けません。「兄や姉が繰り返した失敗は俺は絶対にしない。否、できない」と。まさしく、私が私自身を相手に闘いを挑み始めた瞬間でもありました。明日からは母との同居が始まる2003年3月28日もすっかり暮れていました。

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